テルアビブにて平和活動家のヨナタン・ザイゲンさんに話を伺いました。彼は10月7日に起きたハマスの大規模攻撃により亡くなった平和活動家ヴィヴィアン・シルバーさんの息子に当たります。
私はガザ境界付近のキブツ・ベエリで生まれ育ち、母親の影響もあり20代の頃から平和活動に関わる様になりました。エルサレムのNGOが主催するパレスチナ西岸ヘブロンなどへのツアーにも参加し、将来的には法律を学び人権弁護士になろうと思っていました。そんな中、子どもが産まれ、家庭生活に追われる様になり平和活動から遠ざかっていました。
そして10月7日にハマスによる大規模攻撃が発生。それを機に誰も平和について語らなくなりました。自分自身のこともあり、平和のために活動するエネルギーも無く、もう平和について語る意味すら無くなった様に感じました。西岸の占領やガザの包囲は何も良いことをもたらしていないし、イスラエル社会も健全ではいられない。結果いつもイスラエルとパレスチナの間で戦争が生まれるだけです。
ハマス戦闘員によるキブツ・ベエリへの攻撃で母は殺されました。その時、もう自分の生活を続けられないと確信しました。誰しも今のままで生活を続けることはできない。平和を達成するには私たちが今までやってきた方法を変えなければならない。私たちがパレスチナ人を嫌悪し、殺される前に殺す様なことをしてきたからこうなってしまった。
10月7日はウェークアップコールであり、人々はそれに気づかなければなりません。10月7日の出来事は自然な流れの中で起きた結果で、これまで私たちがやってきたことのために起きた不可避なことだったと思います。今回のことを止める方法や再び起こらない様にするための方法は平和を作るしか無い。力でハマスを抑え込むことはできないし、安全のために占領政策を続けることもできない。占領が続く限りパレスチナ人は故郷に戻り暮らしを取り戻すという希望を描けない。この戦争で私たちは失敗を共有しています。
10月7日を機に、私は仕事を辞めて現在は様々な人や団体に平和について話をする活動を行っています。団体と協力してロビー活動を行ったり、平和に向けた国際的な協力体制を構築し、イスラエル政府やハマス両陣営に圧力をかけて和平を進める取り組みも行っています。また亡き母への追悼として、イスラエルの市民社会の平和や政策決定への女性の参与に貢献している人に毎年賞を与えるVivian Silver Fundも設立しました。
当初、母の死が確認されずハマスに誘拐されたと考えられていた時、毎日メディアのインタビューを受けていて、母が死んだと分かった後はそれまでとは違ったタイプのインタビューを数多く受ける様になりました。現在はインタビューを受ける機会は減り、替わりに様々な団体に呼ばれて話をする活動を始めています。
先日は、The Parents Circle Families Forum(PCFF)で話をしました。この団体は、戦争で肉親を亡くしたイスラエルとパレスチナ双方の遺族が学校や会合などで自身の経験を話して共有する取り組みを行っているNGOです。人の痛みは万国共通。イスラエル人とパレスチナ人双方が痛みについて話し、自分達が暴力により何を失ったかを共有することで、違った平和へのアプローチが可能になるかもしれません。また数週間前には、ユダヤ人とアラブ人が一緒に学ぶ学校に呼ばれてそこでも話をしました。
自分自身、今は声を上げるステージにいると思っていて、平和の必要性や興味、関心を世論の中に生み出すことが重要だと感じています。というのも、政治家は社会問題に対し何らかの手段で対処して成果を得ようとします。もし私たちが平和に向けた動きや声を上げ、多くの人々がそれに関心を持てば、それが政治的な動きに変換されるのではないでしょうか。(暴力的手段では無く、平和的な手段で問題解決を図るかもしれない)
10月7日以降、イスラエル人とパレスチナ人との関係にも変化がありました。ハマス攻撃によりイスラエルにおいて数多くのグループやコミュニティが崩壊しました。しかし、多くのパレスチナ人たちはそれに目を向けませんでした。そして、イスラエル人もまた今ガザや西岸で起きていることにしっかり目を向けていません。両者の関係はより分断され、長年イスラエル人とパレスチナ人が共に活動してきたPCFFの様な団体ですら内部分裂が起き、共に働けなくなっている状態にあります。
ハマス攻撃によりユダヤ人は大きなトラウマを抱え恐怖を感じています。市民の中には護身用に大きなライフルを肩に担いで生活している人も多くいます。結局、戦争は悪いことしかもたらさない。良いことをもたらさないし必要性もありません。
人々はイスラエルとパレスチナの問題は複雑だと言いますがそんなことは無いと思います。問題は一つだけ。問題は多くの人が平和を本気で求めていないということ。多くの人は「この問題は終わらない」と考えたがってきました。自分自身を煩わせたくないから「複雑すぎて解決できない」と理由をつけてきました。もし考え方され変えられれば複雑ではありません。要は平和にしたいのかどうかだと思います。
私たちは占領政策を止める様に政府に圧力をかけられます。なぜなら、イスラエル社会において入植活動を推進する人々は少数派だからです。それにも関わらず、彼らが国や政策を動かしています。西岸の入植地に住む多くのイスラエル人は政府が安く住居や良い環境を提供するからそこに住んでいる人(Economical Settler)に過ぎません。
10月7日以降、人々はこの問題を終わらせなければならないと気づいたはずです。パレスチナと和平合意を結ばなければならない。彼らが欲するものを認め、独立を容認しなければならない。この戦争がある限り国は前に進まないし発展できません。多くの市民が現ネタニヤフ政権に反対していますが、政権は入植者と繋がり力を保持し極右イデオロギーに則って動いており、国連などからの圧力も意に介していません。だからこそ、私たちが国際社会に対して現政権を止める様さらに圧力をかけていかなければならないと思います。
問題の解決策は単純です。ただそこに至る過程が難しくなっています。ユダヤ人、パレスチナ人と言っても双方に様々な人が存在しています。ユダヤ人の場合、イスラエルで暮らすユダヤ人、世界中の改革派ユダヤ人や超正統派ユダヤ人と大きく分けて3つのグループが存在し、それぞれが違ったビジョンを描いています。
一方パレスチナ人の場合、占領政策により故郷を追われ難民としてヨルダンやレバノンなどで暮らしている人、ガザ地区で監獄の中の様な環境下で暮らしている人、西岸で日々チェックポイントや入植活動に直面しながら暮らしている人、イスラエル国内で少数派として暮らしている人、はたまた国外で高い生活水準の中豊かな暮らしを送っている人もいます。
この様にバックグラウンドの違いからくる価値観や考え方の違いがユダヤ人同士、パレスチナ人同士の間でも大きな隔たりを生んでいる様に思います。それによりどこで折り合いをつけかを非常に難しくしているのではないでしょうか。こうした事情も「二国家解決」という明確な解決策がありながら、そこに至る過程を複雑にしてしまっているのかもしれません。